和歌山ではなんてことない景色かもしれない。
しかし、決してふつうではない水世界。
「この水中に広がる水色は、透明度の高い極上の水だからこそ見えるものなんです。和歌山は、そんな清らかな川が無数に存在する世界でも稀な地域なんです」。そう話すのは、ネイチャー・フォトグラファーの内山りゅうさん。これまで国内はもちろん、アフリカのタンガニーカ湖、ロシアのバイカル湖など、世界の淡水環境を撮影し続けてきた。そんな内山さんが、圧倒的な水の美しさに惹かれて東京から和歌山に移住したのが21年前。暮らしのすぐそばで、ごくごく当たり前のように存在する清流に驚き、その美しさを捉えたものがこれらの写真だ。
「これほどきれいな水があるのは、紀伊半島の水の循環が健全だから。山に降り注いだ雨が森をくぐり抜けて川となり、海に注ぐ。そしてその海水が蒸発して雲となり、また雨を降らせる。和歌山は多雨で豊かな森林が残っていることもあり、こうした循環が今もきちんと保たれている。しかも、山と海の距離が近く、そのサイクルがコンパクト。こんなにクリアな水にあちこちで出合える場所はほかにはない。清らかな水は眺めるだけでも心洗われます。そして、上流域まで足を延ばして極上の水に触れてみれば、さらなる感動があると思います。未知の景色や音、感触を体感できますよ」。
- 1962年、東京生まれ。淡水を中心に、水に関わる生き物と、その環境を撮影し続けるネイチャー・フォトグラファー。和歌山の美しい水との出会いにより、1999年白浜町へ移住。

上:『水滴』撮影場所:西牟婁郡白浜町
雨が多く湿潤な紀南地方では、森に一歩入るだけで、雨水が滴る苔やシダを見かける。
下:『川遊び』撮影場所:田辺市(安川)
水中メガネを着けて川にゴボッと潜るだけで、全身に響く水流の音や振動に感動する。

- 海から遡上した若アユが上流を目指す。海と川とを行き来する生きものにとって、その両方の環境が保たれていることは、とても重要である。

- 初夏、滝の拝の水中。陽の光が十分に降り注ぐ川底は、思ったより明るい。対岸まで見渡せる透明度に驚く。

- 水中から真っ赤に染まる紅葉を眺める。レンズは完全に水の中。それでも水の美しさゆえ、水上の風景がこれほどクリアに見える。

- 山に咲く桜を水中からお花見。透明度の高い川では、水の中でも四季を感じる景色に出会える。