心浄める聖地の旅
新型コロナウイルス感染症の影響で、新しい旅のスタイルが模索されている今、凛と澄んだ空気が漂う高野山へ出掛けよう。高野山は、約1200年前に弘法大師空海によって開かれた真言密教の修行道場。今でも多くの人々の信仰を集める山上の聖地だ。 深い歴史を持つ古社名刹や最近人気を集めるスポットなど、魅力たっぷりの山麓の町を訪ね、古人たちが祈りを込めて歩いた参詣道を辿り山上を目指す。空海が創り上げた清らかな世界に触れることだけでなく、参詣することそのものが心身を浄化してくれることに気づく。社会の閉塞感や緊張感から解放され、本来の自分を取り戻す、心浄める旅へ。
浄化の旅がはじまる。高揚感とともに山上の聖地へ
【九度山町・かつらぎ町・高野町】 古くから高野山へ向かう旅人たちを迎え入れてきた山麓の町々。浄化の旅の第一歩は、聖地・高野山にゆかりのある、魅力的な名所を巡りたい。 先人たちの信仰心に触れるなら、高野山町石道を歩いて登りたい。町石道とは、高野山を開いた際に木製卒塔婆を立てて道標とした表参道のこと。鎌倉時代には石造の五輪卒塔婆に変わり今日に遺されている。慈尊院から高野山壇上伽藍・根本大塔にかけて置かれた180基の町石ひとつひとつに手を合わせながら登る。ひたすら険しい道のりを歩くことで、流れる汗と共に心が洗われてゆくようだ。 気軽な旅を楽しむなら、鉄道とケーブルカーを利用するのもおすすめ。俗世と聖域の境界といわれる極楽橋に位置する、高野山への玄関口・極楽橋駅へ。同駅に描かれた天井絵は、圧巻の美しさで、まるで極楽浄土にいるよう。昂る思いを胸に、山上の聖地・高野山はもうすぐだ。
空海が開いた山上の聖地で曼荼羅世界の一部になる
【高野町】 周囲を幾重もの峰々に囲まれた山上の盆地にあり、清澄な空気に満たされた山上の聖地・高野山。空海は、外界から隔絶されたこの山全体を曼まんだら荼羅世界に見立て、密教の修験道場を築き上げた。曼荼羅とは、真言密教の本尊・大日如来の説く複雑な真理や悟りを、視覚的、象徴的に表したものだといわれている。そして空海が真っ先に取り組んだといわれるのが、壇上伽藍の造営だ。 西塔や根本大塔など諸堂の配置により、真言密教の宇宙観を示す「両界曼荼羅」の「胎蔵界」と「金剛界」が立体的に表現されており、古くから聖地・高野山の核としてさまざまな儀式が行われてきた。 1200年以上に渡り、人々の真摯で清らかな祈りが集まり続けるこの地で、空海の描いた宇宙に触れてみよう。
聖域の最奥でお大師さまに出会い生きる力に満たされる
【高野町】 日常とはかけ離れた神秘の地で、自分自身を見つめなおすことができるのが宿坊体験だ。早朝の勤行に参加したり、写経をしたり、精進料理をいただいたり、静寂に包まれた夜の凛とした空気を味わったり。その一つ一つの体験が心と体を浄めてくれる。壇上伽藍と並ぶ高野山の聖域である奥之院。その最奥に位置する御廟では、弘法大師空海が今なお生きて、世界の安寧と人々の幸福を一日も欠かすことなく祈り続けているという。高野山を訪れる人々が旅を終え日常に戻ったとしても、高野山で空海の祈りは続いていく。空海が創造した聖地に入り、その世界に包まれるという特別な体験は、きっと明日を生きるエネルギーになるはずだ。心浄める聖地の旅生身供(しょうじんぐ)弘法大師空海に御膳を届ける「生身供」は、空海が永遠の瞑想に入ってから1200年以上もの間続けられている儀式。6:00と10:30、嘗試(あじみ)地蔵での味見を経て御廟へと運ばれる。