梅がつなぐ里山の恵み
〜みなべ・田辺で巡る“循環”の旅〜

太平洋に面し、温暖で豊かな里山が広がるみなべ・田辺エリア。日本一の梅の産地として知られるこの地域には、自然・人・暮らしが調和しながら育まれてきた梅を中心とする農業文化があります。これが2015年、「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に認定されました。みなべ・田辺独自の農業文化を知り、和歌山県が誇る「梅」をたずねる旅へ出かけてみませんか。

梅がつなぐ里山の恵み〜みなべ・田辺で巡る“循環”の旅〜

里山が育む梅づくり

みなべ・田辺の梅づくりには、果実を育てる営みだけではなく、人々の暮らしと自然が寄り添いながら築いてきた、この地域ならではの“循環の知恵”が息づいています。

この地域では昔から薪炭林(薪や木炭の原料の生産を目的とする森林。この地域では、紀州備長炭の原料のウバメガシやカシの林。)を残しながら山の斜面に梅林を配置してきました。そうすることで山の崩落を防ぎ、水分の保持やミツバチの活動、多様な生き物の生態系の維持などを助け、総合的な自然環境が守られてきたのです。長年受け継がれてきたこの持続可能な農業文化が評価され、「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に認定されました。梅の名産地として知られる背景には、長い年月をかけて紡がれてきた、里山の物語が広がっています。

【有限会社 紀州高田果園・高田 智史さんにお話を聞きました】
「南高梅」誕生を導いた一本の木

「南高梅の歴史は、明治35年に祖父が梅を植えたことから始まります」。そう語るのは紀州高田果園を営む高田さん。当時60本の苗木の中に、ひときわ美しい実をつける一本があったといいます。その木を「高田梅」と呼び、大切に育ててきたことが原点です。村には十数種類の梅があり、産地としてブランドを一本化するための選定委員会が設けられました。7年の歳月を経て絞り込まれ、果肉の厚さや皮の薄さ、豊かな酸味とコクを併せ持つ味わいなど、総合的に評価されたこの梅が最後に選ばれ、「南高梅」が誕生。南部(みなべ)の「南」と高田梅の「高」の文字から、また、地道な調査研究に協力した「南部高校」との関わりもあり、「南高梅」と名付けられました。和歌山を代表する品種の背景には、一粒の“見事な実”を見逃さなかった生産者のまなざしと、この土地に根づく丁寧なものづくりの精神が息づいています。

土と向き合い続けた梅づくり

「有機栽培は、まず土づくりからやぞ」。そう背中を押してくれた師匠の言葉を胸に、長年にわたり減農薬栽培に取り組み、2011年に有機認証を取得した高田さん。「木も人間も、環境に慣れるまでは我慢が必要なんです」。その言葉どおり、時間をかけて堆肥づくりと向き合い続けてきました。梅は生で味わう機会が少ないため違いが伝わりにくいものの、塩漬けのみの梅や梅酒にしたときの香りや風味に、手間ひまをかけた有機栽培の手応えを感じているそうです。「梅というと梅干しを思い浮かべる方が多いですが、6月に実る梅そのものの香りや色合いを、ぜひ体感してほしいです。そして、生産者との会話を通して、梅づくりの苦労や想いに触れてもらえたら、もっと梅を身近に感じていただけるのではないでしょうか」。そう語る言葉に、この土地の恵みを真っ直ぐに伝えたいという想いがにじみます。

五感で触れる南高梅の魅力

2月には一帯が白い梅の花で染まり、ふわりと甘い香りが広がる紀州高田果園。その風景を眺めるだけで心がほどける季節です。6月には完熟した梅の収穫体験ができ、手にした瞬間に感じる柔らかさや色づきは、その時期ならではの魅力。収穫した梅を使って梅干しや梅シロップづくりにも挑戦でき、自分の手で“プチ梅仕事”が楽しめます。

加工場は和歌山の杉を用いた木造で、自然素材ならではの温もりが心地よい空間。木と梅の香りが調和する中で、ものづくりの現場を感じられます。農園では、自社の梅と紫蘇を昔ながらの製法で仕上げた梅干しなど、こだわりの品も購入可能。五感を通して、梅のある時間を味わえます。


【有機梅干瓶詰め放題】

所要時間:2時間

料金:500ml瓶/3,800円~、1L瓶/5,500円、1.8L瓶/9,800円

Column

世界農業遺産に選ばれた「みなべ・田辺の梅システム」とは?

「みなべ・田辺の梅システム」とは、梅の生産を中心に、里山の環境・生態系・人の営みが循環的につながる独自の農業システムのことです。傾斜地が多く痩せた土地では、薪炭林と梅林を整備することで土壌を守り、水を蓄える仕組みが育まれてきました。湧き水は梅畑を潤し、やがて海へと流れて豊かな漁場をつくります。さらに、梅は早春に花を咲かせることでニホンミツバチにとって貴重な蜜源となり受粉を助けることで実りを支える循環も生まれています。農業・林業・養蜂・漁業がゆるやかに連携しながら400年以上続いてきたこの営みは、自然と人が共生するモデルとして評価され、2015年に世界農業遺産に認定されました。

世界農業遺産に選ばれた「みなべ・田辺の梅システム」とは?

【梅システムマイスター・上野 章さんにお話を聞きました】
梅を支える見えないつながり、里山に息づく役割

「この地域の梅づくりは、農家さんだけで成り立っているわけではありません」と梅システムマイスターとして、里山が果たす役割や、産業同士のつながりを伝える活動に力を注ぐ上野さんは語ります。薪炭林を含む山づくりは、水を蓄え、畑を守る基盤となり、干ばつや豪雨など気候変動の影響を考えると、山の手入れや環境を保つことは欠かせません。また、梅の生産を支えているのは、農家だけでなく、受粉を助けるミツバチを扱う養蜂家や、梅を使った加工品をつくる事業者など、様々な人たちの仕事が関わっています。上野さんは、こうした関係性について「別々の仕事が、実は全部つながっている」と話します。その“見えないつながり”を伝え、地域の未来へつなげていくことが大切なことなのです。

物語を次の世代へ「世界農業遺産まちキャンパスプロジェクト」

「町そのものを、学びの場にできないかと考えました」。そう語る上野さんが中心となって進めているのが、世界農業遺産まちキャンパスプロジェクトです。一次産業の現場や地域の仕組みを体験し、学び、さらに人に伝えることで、土地への理解と誇りを育てていく取り組み。大学生が梅システムを学び、下級生や子どもたちに伝える仕組みを取り入れることで、受け身だった学びを能動的な学びへと変えています。「教えることで、初めて本当に理解できる」。その実感が、地域を語れる人を育て、やがて地域外へ出たあとも、ふと戻ってきたくなる関係を生み出していくといいます。「地域のことを知り、伝える経験を通して、梅システムを次の世代へつないでいきたい」。そんな想いが、この取り組みの根底にあります。

Column

梅を知る入り口「みなべ町うめ振興館」

みなべ町うめ振興館は、梅のことを楽しく学べる施設です。館内では、この地域が誇る梅の歴史や文化、栽培の工夫などを、展示や映像を通して分かりやすく紹介。子どもから大人まで、気軽に梅の奥深さに触れられます。また、梅干しをはじめとした加工品や関連商品が並ぶ売店も併設されており、お土産選びにもぴったり。観光の合間に立ち寄れば、「知る・見る」を一度に楽しめるのが魅力です。梅の産地ならではの背景を知ると、ますますこの地域を巡りたくなる、そんな立ち寄りスポットです。

【紀州備長炭振興館・松本 貢さんにお話を聞きました】
里山を守ってきた紀州備長炭

紀州備長炭は、約300年前に現在の製法が確立されたとされる、和歌山を代表する特産品です。松本さんによると、その品質の高さから江戸時代には紀州藩が専売制を敷き、他県へ技術が流出しないよう厳しく管理されていたといいます。「生産者も、紀州から外へ技術を持ち出してはいけないとされ、産業として保護されていました。それほど当時から、貴重で非常に優れた炭だったということです」と松本さんは語ります。

長い年月をかけて受け継がれてきた技術は、今も炭焼き職人の手によって守られています。火力が強く安定し、煙やにおいが少ない紀州備長炭は料理人から高く評価されてきましたが、その背景にあるのは、原料となる木を育てる里山の存在です。備長炭づくりは、炭を生み出す営みであると同時に、梅を育む環境を支えてきた里山管理の仕事でもありました。

山から畑へ続く梅の舞台

「みなべ・田辺の梅システムの中で、私たちは里山を管理する役割を担っています」。松本さんはそう語ります。備長炭の原料となるウバメガシを中心に、山を循環的に手入れすることで、土壌が育ち、水が蓄えられ、その恵みは梅畑や海へとつながっていきます。近年は備長炭の需要増加により、山づくりの技術が置き去りにされた時期もありましたが、現在は原点に立ち返り、ウバメガシ以外にも多様な広葉樹林を育てる取り組みが進められています。こうした森づくりは、ニホンミツバチの生息環境を守り、梅の受粉を支えることにもつながります。「山を生かすことが、農業も漁業も守ることになる」。備長炭の仕事は、梅システム全体を支える重要な役割を果たしているのです。

味わい、知る、つくる、梅干しづくりの現場へ「中田食品」

梅を“味わいながら学べる”立ち寄りスポットが、中田食品の本社直売店です。併設の梅回廊では、ガラス越しに梅干しづくりの現場を見学可能。声をかけるとスタッフが工程を案内してくれ、気軽に工場見学のような臨場感を味わえるのも魅力です。

体験コーナーでは、完熟梅を使った梅酒や梅シロップづくりに挑戦。氷砂糖やお酒を選び、梅を詰めていく工程はシンプルながら、素材の違いが仕上がりに表れる奥深さがあります。完成後の味を想像しながらつくる時間も楽しみのひとつです。

試飲コーナーでは多彩な梅酒を飲み比べられ、お気に入りの一本に出会えるのもうれしいポイント。


【わたしの手作り 梅シロップ・梅酒】

申し込み方法:当日受付可能

所要時間:30分

料金:梅シロップ/1,100円、ホワイトリカー/1,320円、ブランデー/1,540円

里山の素材と手仕事に出会う「秋津野ガルテン」

梅をはじめ、里山の素材を暮らしの中で生かす体験ができるのが、秋津野ガルテンです。通年で楽しめる梅の枝染め体験では、剪定後の梅の枝を煮出した染液と、その枝を燃やした灰を使い、やさしいピンクや紫がかった自然色を生み出します。素材を無駄にせず循環させる知恵に触れられるのも、この体験ならではの魅力。バンダナやストールなどを自由に仕上げ、自分だけの一枚を持ち帰ることができます。


敷地内のお菓子工房「バレンシア畑」(イートイン可)では、地元出身の若手パティシエが、梅を使った焼き菓子やスイーツを製作。傷がついた梅も工夫次第で新たな価値に変え、味わいとして届けています。里山に囲まれた穏やかな空間で、ものづくりと味わう時間を通して、地域の営みを身近に感じられる立ち寄りスポットです。


【梅の枝染め体験】

所要時間:約60〜90分

料金: 2,300円


梅ティグレ(チョコレート) 400円

梅で整える里山ごはん「うめヲムスビ」

梅を主役にした身体にやさしい食事を楽しめるのが「うめヲムスビ」。自家栽培の野菜を中心に、調味には自家製の塩麹を取り入れ、素材の味を引き出すことを大切にしています。塩麹で旨みを補うことで、塩分は控えめでも満足感のある味わいに。オーナーの平野さんが看護師として多くの人の健康に向き合ってきた経験から、身体に負担なく味わいを楽しめる食事づくりにつなげています。


料理には梅干しを“具材”としてだけでなく、からあげや天ぷらの付け合わせ、調味料の一部としても活用。酸味と旨みが料理全体を引き締め、後味の軽やかさにつながっています。メニューはその時々に採れた野菜や旬の食材を生かした内容に。落ち着いた空間で味わうひと皿は、心と体の両方をそっと整えてくれます。梅の産地ならではの知恵が息づく、日常に寄り添う里山ごはんを楽しめる一軒です。


ヲムスビランチ 1,600円

うめジュース 450円

とうふドーナツ きなこ 450円

梅が結ぶ里山の知恵から みなべ・田辺が未来へ届ける実り

みなべ・田辺の地では、梅づくりを軸に、自然と人の営みが幾重にも重なりながら受け継がれてきました。南高梅の誕生を支えた生産者の目利き、土と向き合い続ける農家の手仕事、里山を守る備長炭づくり、そしてそれらを伝え、学びにつなぐ人々の存在。すべてが結び合い、「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に認められた理由が、この地には息づいています。梅の花が咲き、実り、加工され、暮らしの中で味わわれるまで、その一つひとつの過程に、自然への敬意と、次の世代へ手渡したいという想いが込められています。

2月には梅の花が咲き誇り、甘い香りに満たされるこのエリア。里山を歩き、梅の香りに触れ、人の声に耳を傾ける時間が、旅を“観光”から“体験”へと変えてくれるはず。みなべ・田辺で出会う梅の物語は、日々の暮らしの中で忘れがちなつながりを、そっと思い出させてくれます。季節を変えて、また訪れたくなる。そんな余韻を胸に、この里山の旅を味わってみてください。

南部梅林
一目百万香り十里といわれる南部梅林は日本最大級の広さを誇ります。例年1月下旬から3月上旬に開園し、2月中旬前後に見頃を迎えます。(※開園時期や見頃の時期は毎年前後する可能性があります。)来園される際は、運動靴等の歩きやすい靴がおすすめです。
南部梅林
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紀州石神田辺梅林
梅の産地・田辺市を代表する梅林で、その広大な梅畑は「一目30万本」と謳われます。また、梅林としては近畿屈指の標高(約300m)を誇り、そこから太平洋に向かってすり鉢状に梅畑と里山を臨むロケーションが最大の魅力です。
紀州石神田辺梅林
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紀州高田果園
みなべ町で南高梅の栽培を行う梅農園。明治期に始まった歴史を受け継ぎ、現在は有機栽培に取り組んでいます。収穫期には梅の収穫体験や梅干しづくり体験を実施し、直売所では自園の梅と紫蘇を使った昔ながらの梅干しを販売しています。
紀州高田果園
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みなべ町うめ振興館
当地域の梅の歴史や文化、産地としての歩みを紹介する施設です。展示や映像を通して、南高梅が育まれてきた背景や暮らしとの関わりを分かりやすく解説しています。館内には梅干しや関連商品も並び、観光の合間に立ち寄りやすい拠点として、道の駅としても登録されています。
 みなべ町うめ振興館
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みなべ町立紀州備長炭振興館
2025年10月にリニューアルオープンした、紀州備長炭の魅力を発信する施設。備長炭の歴史や製法、里山との関わりを分かりやすく紹介しています。展示見学は無料で、炭製品や関連グッズも販売されています。
みなべ町立紀州備長炭振興館
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中田食品株式会社 本社直売店
梅干し・梅酒の製造で知られる中田食品の本社直売店。梅回廊と呼ばれる工場見学通路や試飲コーナーを備え、梅加工の現場を身近に感じられます。敷地内には「なかた梅園」や「ぎゃらりぃ梅園」もあり、梅文化を多角的に楽しめるスポットです。
中田食品株式会社 本社直売店
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秋津野ガルテン
旧小学校を活用した体験交流施設。梅染め体験をはじめ、地域の素材を生かしたものづくりが楽しめます。併設のお菓子工房「バレンシア畑」では、梅を使った洋菓子や加工品を販売。里山に囲まれた穏やかな空間で、ものづくりと味わいを通して地域の暮らしに触れることができます。
秋津野ガルテン
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うめヲムスビ
地元産の梅を使った料理やスイーツを提供する飲食店。自家製の塩麹や旬の野菜を取り入れ、梅の酸味と旨みを生かしたやさしい味わいが特徴です。落ち着いた空間で、里山の景色を眺めながら食事を楽しめるのも魅力。観光の合間に、心と体を整えるひとときを過ごせる一軒です。
うめヲムスビ
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梅がつなぐ里山の恵み 〜みなべ・田辺で巡る“循環”の旅〜
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