観光情報誌「紀州浪漫」2022年 秋号 Vol.82

観光情報誌「紀州浪漫」2022年 秋号 Vol.82 秋は和歌山で 芸術の秋、文化の秋。心地よい気候の中でレトロモダンな近代建築を探訪する旅へ。山上の聖地・高野山では歴史と信仰が息づくクラシカルな建築を巡る。また、世界遺産の地・熊野では絵画のような大正モダンの建築に触れることができる新宮市や昭和レトロの“エモさ”が各所に残る那智勝浦町を訪ねる。今回、案内してくれたのは、和歌山の建築に詳しい和歌山県建築士会副会長の中西重裕さん。中西さんは、「広い和歌山には、明治以降のすばらしい近代建築が各所に残されており、地域ごとに個性があるのが魅力です」と語る。どこか懐かしくもあり新しくもあるレトロモダンな建築や風景。そこに漂う歴史や文化、そして人々の思いを追体験しながら、のんびりと時間旅行を楽しもう。 山上の聖地・高野山時を旅する建築探訪 【高野町・九度山町】 弘法大師空海によって開かれた天空の宗教都市、高野山。1200年以上、厚い信仰が息づく聖地だが、建築の観点から訪ねてみると、また違った表情が見えてくる。高野山の歴史は、火災との戦いの歴史でもある。信仰の中心である壇上伽藍にある根本大塔や金堂は、昭和初期に再建された鉄骨鉄筋コンクリート造りのもの。落雷などにより幾度とない焼失を繰り返しながらも、厚い信仰心により再建された壇上伽藍の建築物は、真言密教の象徴として空海の教えを脈々と未来へつないでいる。また、高野山大学図書館、珠数屋四郎兵衛の応接室、橋本警察署高野幹部交番など、近代につくられた建築物も必見。いずれも、今なお現役で利用されているというのが魅力だ。モダンな名建築に触れ、タイムスリップしたような非日常を体感しよう。 熊野レトロモダンとりっぷ ~大正・昭和モダンの建築~ 【新宮市】 生活を芸術として捉えた大正・昭和期を代表する建築家・西村伊作。伊作が生まれ育った新宮市には、今もなおレトロモダンな建築物が残されており、全国から建築ファンが訪れる。旧西村家住宅は当時の住宅としては珍しく、家族団らんを大切にするために居間を中心とした設計がされている。さらに伊作自らデザインした家具も配置され、温かな住まいによく調和している。近隣に建つ旧チャップマン邸は米国人宣教師の住まいで、伊作の思想が反映された洋風建築。また、熊野速玉大社の境内には、西村伊作の弟・大石七分が設計した旧佐藤春夫邸がある。サンルームやバルコニーなど明るくモダンな意匠が特徴。伊作の思いや、当時の人々の豊かな生活を想像しながら、ロマンあふれる新宮の町歩きを楽しんで。 熊野レトロモダンとりっぷ ~昭和レトロの温泉街~ 【那智勝浦町】 純喫茶に、レコード、銭湯。覚えのある人には懐かしく若者には新しい。昭和の面影が「エモい」とブームの今、那智勝浦町には、そんな昭和レトロに出会えるスポットがたくさんある。紀伊勝浦駅を出ると現れる、「黒あめ那智黒」の看板。風が吹くとスパンコールがキラキラと輝き、存在感抜群。アーケードを入った商店街には、昭和の頃に栄えた風景が今も色褪せず残っている。 愛らしいカメの送迎船で向かうのは、昭和年創業のホテル浦島。本館と山上館を結ぶ長いエスカレーターは高低差日本一といわれ、まるで遊園地のアトラクションのよう。さらにディープな町の魅力を訪ねるなら、地元民に愛される公衆浴場・はまゆもおすすめ。ユニークで懐かしい温泉街の魅力にどっぷり浸ろう。 日本農業遺産にも認定された 紀州みかんの里を巡る旅 【有田市・海南市】 トップブランドのひとつ、「有田みかん」の産地で知られる有田市。蔵で熟成させる「蔵出しみかん」の技術を生み出した海南市下津町。両地とも、何世代にもわたって受け継がれた農業システムが日本農業遺産に認定されたみかんの里だ。有田地方のみかん栽培の歴史は古く、さかのぼること約450年前。諸説あるものの、現在の有田市糸我で伊藤孫右衛門が熊本県から持ち帰った苗木を栽培したのが始まりと伝わる。紀州のみかんが広く好まれるきっかけとなったのが江戸への出荷。どの産地よりも味も色も形も群を抜いていると評判を呼び、享保年間(1716~1736)には万籠を江戸に送った記録が残る。海南市下津町には日本で最初にみかんの祖が植えられたとの伝説が残る神社も。みかんのルーツを巡る旅の道中で、ご当地だから味わえるもぎたての果実にガブリ。先人たちが歳月をかけて育んだ美味をご堪能あれ。