甲斐みのりの
かわいい わかやま <第6話>
《第6話》
地元のみなさんから愛されるおやつや甘いものを探して、甲斐みのりが
和歌山各地を巡る小さな旅にご案内

はじめに
“甘いもの”や“おやつの時間”、“すてきなお菓子の包み紙”が好きだと、折りに触れて書いたり話したりしています。
そんなことから、和歌山を訪れるたび、和洋菓子、さまざまな手土産をいただく機会に恵まれてきました。今回は、味、歴史、包み紙、キャラクターと、地元のみなさんから愛される、おやつに味わいたい、和歌山の甘いものを紹介します。
御菓子司 有田屋
紀州街道が通る交通の要地で、江戸時代は廻船業で栄えた御坊市。まちなかには本願寺日高別院を中心に形成された寺内町の風情あるまちなみが今も残されています。西日本一短い鉄道「紀州鉄道」を利用して、まち歩きに訪れる人も多いところ。ぜひ、散策途中に立ち寄ってほしいのが、「御菓子司 有田屋」です。
「鶴寿堂」という名の饅頭店を始めたのが明治10(1877)年。前身は江戸時代末期に創業した「在田屋」という薬屋で、生薬を小袋に入れた振出薬を扱っていたといいます。
私が有田屋を知ったのは、和歌山の友人が「みのりさんが気にいると思って」と、お菓子と包み紙をプレゼントしてくれたのがきっかけでした。有田屋の代表銘菓は、道成寺の安珍・清姫伝説にちなんだたまごせんべい「清姫煎餅」。少し大ぶりの桜の花びら型のせんべいは、ぱりっと歯切れがよく、素朴で優しい味わい。そうしてそのお菓子が包まれていたのが、なんともモダンな絵柄の包装紙。私はお菓子のパッケージコレクターでもあるので、初めて知った有田屋のステキな包み紙に大興奮しました。以来、店を訪れてみたいと憧れていたので、今回は念願の訪問です。
屋号が入った「うだつ」風のサイン灯や、庇下に雨除けの板「しぶき除け」がついた風情ある建物。「修復はいっぱいしているけど、明治からあったんちゃいますか」と、店主の野田和孝さん。砂糖が入手困難な戦時中の一時期は、ここで喫茶店を営んでいたこともあったそうです。店の片隅にある年季が入ったオーブンは今も現役。「ぼうろ」と「ひょうたん」を焼いています。
くだんの包装紙は、店主の兄で多摩美術大学の先生をしていた、画家の野田裕示さんの作品というのも教えていただきました。スプーンをモチーフにしたような菓子缶もあって、残りわずかな在庫が切れたら完売と言うので、お菓子を詰めてもらって自分用に購入しました。
おみやげには、日持ちがする煎餅や「青のり羊羹」が適していますが、散策途中に味わうには、卵・小麦粉・砂糖で焼き上げた皮で、求肥を包んだ「あゆがし」(1~2月は販売休止)や夏期の「葛餅」がおすすめ。もっちりとした食感で、こっくりと上品な甘さが、疲れた体に染み入ります。
◆ 御菓子司 有田屋
御坊市御坊113
0738-22-0045
営業/8:00~19:30
休み/日曜日
玉林園 グリーンコーナー
和歌山市を訪れるたび、必ず食べたいなあと思うもの。それは、安政元(1854)年創業の老舗茶店「玉林園」の抹茶入りソフトクリーム「グリーンソフト」。茶葉の売り上げが下がる夏場の顔として、昭和33(1958)年から販売が始まりました。石臼で丁寧にひいた抹茶を使用することで、みずみずしい抹茶の香りと、ほのかな苦みが際立ち、後味はさっぱり。まだ抹茶味のスイーツが珍しかった時代、抹茶味ブームの先駆けとなりました。
和歌山県民にはお馴染みのグリーンソフト。実は2種類あるのです。コンビニ、スーパー、サービスエリア、アンテナショップなどで販売されており、取り寄せもできることから、広く知られているのが、通称「かたいほう」と呼ばれる冷凍版。グリーンソフトにかぶせたコーンのふたに、四角い紙がちょこんとのっているのがなんとも愛らしい。アヒルのキャラクター“グリンちゃん”がデザインされた緑色の袋が目印です。
一方、「やわらかいほう」と親しまれるのは、玉林園が和歌山市内で営む直営店の限定品。いわゆる、ソフトクリームマシンを使ってその場で作る、抹茶ソフトクリームのこと。昭和35(1960)年に1号店が誕生して以来、和歌山市民・和歌山県民に広く親しまれる「グリーンコーナー」では、不動の人気メニュー。グリーンコーナーでは、かたいほう、やわらかいほう、どちらもを取り扱い、人それぞれ好みが分かれます。和歌山旅ではせっかくならば、現地でしか味わえない、やわらかいほうをまず食べてみてください。お腹の隙間に余裕があるときは、2種類食べ比べしてみるのもおすすめです。さらに今年は、グリンちゃんの形のアイスモナカ「アイスモナカ抹茶味」も新たに発売されました。
グリーンコーナーのもうひとつの名物が、昭和42(1967)年からの歴史がある、天かす入りラーメン「てんかけラーメン」。一般的な「和歌山ラーメン」がこってりしているのに対して、あっさりとした和風のスープが特徴的。細麺に、わかめ、ネギ、紅生姜、たっぷりの天かすをトッピングしています。他にも、明石焼、カレーライス、コロッケ、早ずしと、セットも合わせれば50種類以上のメニューが取り揃います。
緑色がキーカラーの店内では、多くの人が、麺、ご飯もの、焼物を食べたあと、デザートにグリーンソフトをほおばっています。私もすっかり、「これを食べなければ和歌山にやってきた気がしない」というほどに、グリーンソフトに魅せられています。
◆ グリーンコーナー築地橋店
和歌山市舟津町1丁目1
073-424-5117
営業/11:00~22:00
休み/1/1~3
菓匠 春栄堂
お世話になっている和歌山の方から「大好きなおやつです!ぜひ食べてください」といただいたのが、和歌山市和歌浦にある和洋菓子店「春栄堂」の「シューパリ」。1時間ほどかけてしっかりとやきあげるシュー生地は香ばしく、まぶしたアーモンドとバターの香りがふんわり。外側はざくっと歯ごたえがあり、中に詰めた濃厚なカスタードはとろんとなめらかで、生クリームは軽やか。抹茶、生チョコ、プリンと種類があって、1日に1000個以上売れる看板スイーツ。出来立てを食べてほしいと、シュー生地は売り場に併設した工房で、こまめに何度も焼き上げています。
春栄堂の創業は昭和元(1926)年。現店主・南克勲さんの祖父が営む饅頭屋が始まりです。克勲さんの父も祖父を受け継ぎ和菓子屋を営んでいましたが、克勲さんの代から洋菓子も作るようになりました。
シューパリの誕生は30数年前。食べることが大好きな克勲さんは、趣味を兼ねて休みのたびに、さまざまな関西の洋菓子店を食べ歩いていたそう。そんな中思いついたのが、ざっくりと歯ごたえのある生地を使ったシュークリーム。当初は「シューパリジェンヌ」という名で売り出していたところ、繰り返し買いに来てくれるお客さんたちから、「シューパリ」と略して呼ばれるようになり、途中で正式に名前を変更したそうです。
ショーケースには、ショートケーキや、季節のフルーツを活かしたケーキ、プリン、ゼリーと、彩り豊かなスイーツがずらり。この日は、「プリンシュー」や、和歌山産の柑橘を使ったゼリー、カラメルの隠し味に白ワインを合わせたプリンなど、持ち帰りました。
春栄堂では、克勲さんの父が手がける、おはぎ、かしわ餅、大福などの和菓子や赤飯も根強い人気。12月はクリスマス後の26日で年内の洋菓子販売を終了し、28日から31日まではお餅の販売だけに切り替えるのが恒例に。シューパリが一年で一番売れるホワイトデーや、お彼岸……。地元でハレもケも、春栄堂の和洋菓子がかたわらにあります。
◆ 菓匠 春栄堂
和歌山市和歌浦中1丁目5-13
073-444-0571
営業/8:00~17:30
休み/日・水曜日
マル西製菓 ぺんぎん一番堂
「ファーストペンギン」とは、リスクを恐れずに勇気をもって行動する人や企業を敬意をもって表す言葉。有田川町で令和2(2020)年にオープンした和菓子店「マル西製菓 ぺんぎん一番堂」のちょっと風変わりな名前は、店主・西岡晃さんの“ファーストペンギン”としての生き方そのもの。歯科技工士を経て、商工会の職員から、和菓子職人の道へ。西岡さんは新たな世界に飛び込んでは、全力で泳ぎ続けて自分の道を切り開いてきました。
有田川町出身の西岡さんは、地元の商工会職員として働いていたとき、後継者問題で3軒の和菓子屋が廃業していくのを目の当たりにし、どうしようもできないことに、自責の念にかられたそうです。そうして商工会を退職し、52歳で製菓の専門学校へ通い始めました。年が離れた同級生たちと菓子作りを学ぶ日々は、毎日がとても楽しかったといいます。卒業後は大阪の和菓子屋で2年修行し、有田川町に戻って55歳で自分の店を開きました。元ジーンズショップだった店舗には飲食スペースを併設し、カフェのようなモダンな雰囲気に。レジ前のフロアには、子どもたちが楽しんで並んでくれるように、ペンギンの足跡をデザインしています。
一番人気は、注文を受けてから焼いて仕上げる「炙りみたらし」。生地をついたあとに氷水で冷やすことで、独特の弾力が生まれるそう。私が訪れた日も、オープンと同時に一人で店を訪れ、一瞬で「炙りみたらしセット」を食べていった男性客に遭遇しました。こんなふうにカジュアルに、和菓子を味わえる店ができたことを、きっと誇りに感じているでしょう。西岡さん自慢の「本蕨餅」や、色とりどりの「おはぎ」、大福類も根強いファンがついています。あんは糖度を低くすることで小豆の風味がより際立ち、洋酒にも合うと評判なのだとか。
個人的には西岡さんの手から生み出される、美しい季節の生菓子に心惹かれました。このとき季節は夏だったので、「海の星」「金魚羹」と、みずみずしく涼やかなモチーフが並んでいました。注文に応じて作るという練り切りの写真も見せていただいたのですが、ひとつひとつ凝りに凝った芸術作品のよう。西岡さんは歯科技工士だった経歴もあり、手先の器用さが和菓子作りにも活かされているようです。
◆ マル西製菓 ぺんぎん一番堂
有田郡有田川町天満1-15
0737-22-3822
営業/11:00~18:00
・冬季(12月~2月末)は11:00~17:00
・年始(1/1~1/3)は12:00~17:00
休み/月曜日・月2~3日不定休
ご来店前にInstagram「@penguinichibando」で確認お願い致します。
おわりに
今回紹介した4店舗以外にも、和歌山には、おいしくて物語が詰まった、和洋菓子の店がたくさんあります。自分や家族のために、喜ばれる手土産に、それから旅のおみやげに、ぜひ立ち寄って、甘いひとときを楽しんでください。
甲斐 みのり Kai Minori
文筆家・エッセイスト。
日本文藝家協会会員。「高野山・熊野を愛する百人の会」メンバー。
静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科に進学し、卒業後に京都の小出版社や祇園の料亭で働く。現在は東京在住。旅、散歩、手みやげ、お菓子や地元パン(R)、クラシック建築、暮らしや雑貨などを主な題材に執筆。雑貨やカプセルトイのプロデュース、講演会、地自体の観光案内パンフレットの監修もおこなう。2025年5月に和歌山県田辺市の朝を紹介する『朝をたのしむ田辺さんぽ』を刊行。
著書は50冊以上。『旅のたのしみ』では、和歌山県のティーソーダ文化について触れている。『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』原案のドラマ『名建築で昼食を』には監修として携わった。
甲斐みのりの和歌山各地を巡る『小さな旅MAP』
- 御菓子司 有田屋
- グリーンコーナー築地橋店
- 菓匠 春栄堂
- マル西製菓 ぺんぎん一番堂
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