【Birdingを楽しむ和歌山旅】
 熊野古道 紀伊路
 春うらら、里山に生きるたくましき野鳥たち

「Birding」=野鳥観察をテーマに、バードガイド(日本野鳥の会和歌山県支部)の方々と巡った、和歌山県の5つのエリアの魅力をお届けするシリーズ。


この記事で紹介するのは、熊野古道の「紀伊路エリア」。熊野古道 中辺路や高野山周辺とはまったく異なる風景が広がる紀伊路。ここで見られるのは、人と共存する術を覚えた野鳥たちだ。身近だけれど新鮮な、里山の鳥の世界へ。

【Birdingを楽しむ和歌山旅】 熊野古道 紀伊路 春うらら、里山に生きるたくましき野鳥たち

里山から海辺へ、また里山へ

  • 熊野古道全ルートで唯一、浜辺を歩く千里の浜。一帯は本州最大のアオウミガメの産卵地になっており、ウミガメの生態などをパネル展示する千里ウミガメ館が設けられている

熊野古道には5本の代表的なルートがあるが、「紀伊路を歩いた」というハイカーは少ないかもしれない。最も海沿いに近いエリアを歩く熊野古道 紀伊路は、奈良や京都、大阪と熊野を結ぶ主要ルートとして多くの貴族や僧侶、庶民に歩かれた。山深い小辺路や中辺路に比べてアップダウンが少なく、風光明媚な海岸線と人里をつないでいることから、巡礼の旅ではあるものの物見遊山の楽しみや気やすさを味わえたことが人気の理由だったのだろう。

現代の紀伊路も生活圏と交わっているところが多く、集落や田畑といった人々の暮らしのなかに、当時の参詣の拠点が置かれた王子跡や古い信仰の足跡を見ることができる。

  • ガイドを務めるのは坂井隆文さん・始さん親子。親子で野鳥観察なんて、うらやましい!
  • コンパクト&タフな設計で携帯に便利な双眼鏡

“Birding”をテーマに歩く紀伊路は、JR切目駅(印南町)から榎木峠を越え、梅の里として知られるみなべ町までの約12km。途中、“熊野古道随一の景観”として旅人たちを虜にしてきた千里の浜を歩く。壮大な熊野古道全ルートの中で唯一、浜を歩くのがこの区間だ。

このルートのゲストは白浜に住む南アフリカ共和国出身のアーティスト、レボ・トラディさん。鳥の案内人は、田辺市に住む坂井隆文さんと、高校生の始さん親子。始さんは、父・隆文さんの影響で野鳥観察を始めたのかと思いきや、なんと野鳥歴は始さんのほうが上! 小学生のときに参加した自然観察会をきっかけに野鳥にハマり、愛好家歴は約10年とか。

  • カモメやトビが飛ぶ海辺で野鳥観察。里山とはまた違った種類の鳥に出会えるのが楽しい

切目駅を出発してすぐに現れるのが、切目中山王子。王子とは熊野古道に沿って配置されている小さな社で、熊野の神の分霊と考えられている。往時の参詣者は王子で休憩を兼ねた祈りの時間を取ったというから、“神聖なチェックポイント”のような存在だろうか。

境内ではヒヨドリの集団が大騒ぎしていた。「ヒヨヒヨ」とわかりやすい鳴き声から「ギーッ」という怪鳥のような雄叫びまで、すべてヒヨドリ。「ヒヨドリは他の鳥の物真似をすることもあるから鳴き声はいろいろなんです」と始さん。“絶叫系”と呼ばれるのも納得のやかましさである。

熊野古道で唯一の浜辺を歩く

  • 海に面した岩代王子でスケッチブックを取り出す。何を描いているかというと……

一面にキクのような花が咲く野原にはメジロが飛んでいて、榎木峠の先の梅林周辺にはウグイスの鳴き声が響いていた。「チッチッ」とよく響く声の主はアオジ。こうして鳴き声を聞いていると、里山にいる鳥と、中辺路や護摩壇山の自然林に生息する鳥は種類が違うんだなと実感するのである。

榎木峠からゆるやかな坂を下ると海が見えてきた。JRきのくに線の線路の一段上の道を東へ進む。その先の岩代王子は雰囲気のいい、マツに囲まれた海を望む社で、本来の紀伊路はここから千里の浜まで浜づたいに歩くものだった(現在は通行不可)。ここでペンとスケッチブックを取り出したレボさん、さらさらと鳥の絵を描き始める。何を描いたの?

  • レボさんが色ペンで描いてくれた作品。モチーフは、赤いくちばしが特徴のアカショウビン。森林に生息するカワセミの仲間で、残念ながらこの日は遭遇できず!

「今日は目にしていないけれど、カラフルな鳥が好きだから」と、見せてくれたのは、なんとも綺麗な赤いクチバシのアカショウビン!

内陸側へ大きく迂回し、ウミガメの産卵ポイントにもなっている千里の浜へ。海鳥を探していると、上空から3羽のトビに狙われた。餌を持っていると誤解されたのだろう。その先、南部川の河口にはたくさんの海鳥が集まっていた。浅瀬にいるのはダイサギとカモ類、上空にはウミネコと、たくさんのセグロカモメ。セグロカモメは海鳥だが、淡水が混ざり合う河口で水浴びすることが多いそう。

ともゑ堂|立ち寄りどころ

ガラスケースに入った昔懐かしいお菓子を量り売りしてくれる「ともゑ堂」。サツマイモの豊かな風味と糖蜜のカリッ、ポリッとした食感がクセになる芋けんぴは紀伊路散策のおやつにぴったり

ともゑ堂」オリジナルの「たま子せんべい」は、卵と小麦粉を使って焼き上げる、優しい味わいが特徴だ。写真の「うめ塩味」は梅酢を煮詰めた自家製梅塩を使い、甘しょっぱさとわずかな酸味を利かせている。レトロなパッケージもかわいい

カラスは旅人たちの守護神

  • 河口付近にいたのは、グレーと白のモノトーンの身体をもつセグロカモメ。翼を広げると150cmにもなり、その大きさにびっくり Photography: Sakai Hajime

河口ポイントから先は再び人里エリアへ入る。本日のルート最後の王子、三鍋王子ではカラスの集団に遭遇した。そういえば、紀伊路を経て熊野三山にたどりついた参拝者が授かるお札には、カラスの姿を組み合わせてデザインされた烏文字が使われている。お札の裏に誓いを書き記すのだが、熊野の神の遣いであるカラスがその誓約の証人となった。とすると、熊野古道に現れるカラスはなにかのメッセージかもしれない……なんて、意味深なものを感じてしまうのだった。

この先の紀伊田辺からルートは中辺路 大辺路にいたり、熊野三山を目前に控え巡礼の旅もハイライトを迎える。当時の参詣者も、鳥の気配に癒されながら歩いたことだろう。

MUYA|立ち寄りどころ

丁寧に淹れたコーヒー、手作りのスイーツ、ユニセックス&シーズンレスで展開するアパレル……。オーナー夫妻の審美眼を体現する空気感が心地いい「MUYA」は、リノベーションした4階建ての古いビルにカフェとアパレルショップ、ホテル、ギャラリーを展開するコンプレックス施設だ

紀伊路散歩の後は、足を延ばして白浜町の「MUYA」へ。自家製コーヒーゼリーはプルプルの食感が絶品

Restaurant Caravansarai(レストラン キャラバンサライ)|立ち寄りどころ

南高梅の産地・田辺市上芳養(かみはや)地区にある正統派フレンチレストラン「Restaurant Caravansarai(レストラン キャラバンサライ)」。生ゴミを堆肥化して土に還す、梅農家の繁忙期にはレストランを休業して農家のための弁当販売・配送を行うなど、地域に寄り添うレストラン経営を行っている。オープンして間もなく、ミシュランガイド2022のビブグルマンと、持続可能な取り組みを行う店舗に贈られるグリーンスターをダブルで獲得!

Restaurant Caravansarai(レストラン キャラバンサライ)オーナーシェフの更井亮介さん。更井さんの祖父が使っていた古い梅蔵(梅農家の作業小屋)を改装した空間には、60年前の木の柱や土壁がそのまま生かされている。祖父仕込みの自家製梅干しは訪れた人だけのお楽しみ

レボ・トラディ


兵庫1994年、南アフリカ出身。画家、アーティスト。グラフィックデザインを学んだ後、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)を通じて来日。2024年から地域に根ざした創作活動をスタート。南アフリカのダイナミックな自然に囲まれて育った背景から、野生動物、とくに動物の赤ちゃんをテーマにした作画を続ける。

KUMANOKODO KIIJI BIRDS
身近な野鳥に出会える

<鳥の鳴き声を聴く>


シジュウカラ


メジロ


ウグイス


狙い目は春と秋。渡り鳥と留鳥でにぎやかに
 
 
紀伊半島の沿岸部を南北につなぐ紀伊路では、里山に雑木林、海辺からさらに河口へと、多彩な環境が混在し、それぞれに生息する鳥を観察できる。里山や農地ではヒヨドリやウグイスがさえずり、雑木林にはシジュウカラ。梅林では花の蜜を求めてメジロが飛び交う。河口を見ればカモにサギ、さらに上空にはトビが舞い……といった具合だ。特に、冬鳥と夏鳥、留鳥が重なって一気に種類が増える春と秋は、さまざまなさえずりや地鳴きがあちこちから聞こえてくる。

カイツブリは池や沼に生息する小型の水鳥で、カモの仲間に間違われることもあるけれど、まったく別物。春から秋は顎から首にかけて赤褐色に変わる。水辺でよく見かけるサギは、全身が真っ白な羽で覆われているシラサギ群(ダイサギ、コサギ)、薄いグレーに見えるアオサギ、ずんぐりした見た目のゴイサギが一般的。水田や水路で見かけることも多く、最も身近な野鳥の一種だ。

Route Guide

ともゑ堂

和歌山県田辺市南新町47

TEL:0739-22-1260

MUYA

和歌山県西牟婁郡白浜町1946

Restaurant Caravansarai(レストラン キャラバンサライ)

和歌山県田辺市上芳養595

TEL:0739-33-9990

本特集は、トラベル・ライフスタイル誌「PAPERSKY」no.74とのタイアップ記事です。

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